先月からの流れで、空き家処分に関連した話題を提供しています。
そもそも、相続するから空き家をどうしようかと困ることになるので、
みんなで相続放棄すればいいじゃないか、という意見も聞こえてきます。
相続人が多い場合は「いち抜けた♪」という感じで、ほかの相続人に後を任せることになります。
相続人が1人の場合や、相続人全員が相続放棄した場合、その土地や建物、不動産はどうなるのでしょうか?
実はここが大きな落とし穴で、問題がかなり大きくなります。
①所有者不在不動産となり、ほとんどの人が手出しできなくなる
②次の管理者が決まるまでは、相続放棄したと言えど「管理義務」が付きまとう
※ここから先は専門用語が多くなる分野なので、できるだけ簡単に書きます。
◆①について、数か月後に、近所の方が
「亡くなった〇〇さんの家、用あって欲しいんだけど」
と言われたとしても、手出しできません。
誰かが相続してくれていれば、ご近所の方はその相続人から買うことができたのです。
では、相続放棄された土地建物はどうなるのか?
そのままでは「所有者不在不動産」であり、何もできません。
自動的に国や地方自治体のものになる、と思っている人もいますが、そんな制度はありません。
何ができるかというと、相続放棄した遺族や、債権者等、なんらかの関係があった人であれば、
裁判所に申立てをして「相続財産清算人」を選任してもらうことができます。
予納金というものがあり、物件や状況により10万~100万円程度かかるそうです。
(あくまで私の経験上の話です)
これにより、「所有者不在不動産」から「相続放棄管理不動産」になります。
※私が勝手につけた名称です。専門用語ではないので注意!
相続財産清算人の多くは、地元の弁護士が選ばれるようです。
その相続財産清算人に「〇〇円で買いたいんだけど」と話をし、
清算人が裁判所に「〇〇円で買いたいという人がいるのですが、それでもいいですか?」
と許可申請をし、許可されれば、不動産売買契約ができます。
ここまで進むのに、3、4か月はかかります。
・・・と長々と書きましたが、要は「ほぼ誰も手出しができなくなる」
という不都合が発生するのです。国のものになって国が儲かるわけではないのです。
◆そして②について。
意外と知られていない事実なのですが、相続放棄したとしても、
相続放棄された不動産の関係者は「地元の役所」がしっかり把握しています。
戸籍をたどれば、子々孫々、いつまでも追いかけることができます。
そして、夏が来ると、手紙が届いたり、電話が来たりします。
「亡くなられた〇〇さんの家、草ボーボーで近所の皆さんが迷惑されているので、至急対処願います」
しかし、今年の民法改正で、管理義務があるのは「現に占有」している人、
に限られることになりました。
そして管理義務から保存義務に名称が変わりました。
でも、占有してないから保存義務がなくなったとしても、
相続放棄不動産付近には、顔が出せなくなりそうですよね・・・。
義務はなくなっても「お願い」レベルで何かしらの連絡は来るでしょう。
法に触れないからと言って無下に対応すると、後々トラブルや事件に発展することもあるので要注意です。
◆結論
やむを得ず相続放棄、ということは致し方ないことかと思います。
ただ、相続放棄すると、我々不動産業界も含め、同じ町内の人、役所の人がとても困ることが多いです。
相続放棄された不動産の相談が私のもとに来ても、
「すみません、上記のような理由で何も手出しができません」
ということになります。
役所も対応できません。
結構、絶望的です。
◆対策
相続放棄する前に、近所の方や不動産会社に
「売れるか」「最悪、ただでも欲しい人がいるか」
を尋ねてみてください。
役所への相談でもよいです。
ある程度信頼できる不動産会社につないでくれると思います。
「所有者不在不動産」は、所有者が明らかになっている単なる空き家と比べて、
非常にタチが悪いです。
簡単に相続放棄ではなく、社会全体やそのまちの幸せのために、
面倒かもしれませんが、一歩立ち止まって相談してほしいと思います。
個人的には、相続放棄されるくらいなら、相続税なども含めて検討した上で、
相続人が損をされないような価格で買い取りたい、という気持ちが強いです。
相続放棄を考えている方は、まず、地元の不動産屋の意見を聞いてから、を勧めます。